命の期限

　お別れの手紙

最後に彼を見たのはいつだったろう・・

老いは急にやってきたとさすけのお母さんは言っていた

夏の暑さにもう駄目なのかしらと心配になるほど弱っていたさすけが

秋に入って一度元気を取り戻した時

お店の前で１時間ほど一緒に過ごした・・

思えばあれがさすけとのお別れになった

その後も何度か見かけたがゆっくり話す機会は持てなかった

お店の向かいにさすけのお気に入りの場所があった

数少なくなった土の地面

そこも既に新しく建てられた分譲住宅の前庭となっていて

買い手がついてしまう日を恐れていたのが

１０月の始めにとうとう売れてしまい

草地だった前庭はコンクリートにされ門扉ができた

夕方仕事の帰りによくその家の前庭にうずくまっているさすけの姿を見かけたのに

さすけを見なくなって

ある日さすけのお父さんが両手を目の前で泣く様なポーズをとったのが気になっていたけど

ずっと聞けなかった

１１月の２０日　さすけのお父さんと話すことができた

『ちょうど一ヶ月になります』　そう聞いても

現実として受け止めたくなかった

さすけのお父さんが言うには　あいつには先に逝ってる友達が沢山いるので

今頃楽しくやってるでしょう　やっと苦しみからも解放されて

のびのびしてるに違いないって・・

そうなんだ・・　さすけにはいっぱい慰めてもらったし

いっぱい元気ももらったし　のんびりしてくれてたらいいな・・


さすけ　さすけ　さすけ

ありがとう

さすけは　うちの坊主の数ヶ月先輩だったから・・

犬としては　まぁ長生きな方だったんだろうけど

もっとずっとずっと生きてて欲しかったなぁって思ってしまう

短いね　犬の寿命・・

震災孤児のさすけはとっても素敵な新しい飼い主さんに巡り会えて

ほんとに幸せな一生を過ごしたんだと思う

眼鏡店の看板犬として　ご近所の癒し犬として

どれだけ沢山の人達がさすけに元気をもらったか知れない

でも　そんなさすけの顔を見るのが楽しみだったお婆さんにも

悲しいお知らせをしなければならなかったのだろう

ある晴れた　冬にしては暖かな午後

その青いリボンで結ばれたお知らせが掛けられているのに気付いた

『飼い主の知らないさすけの知り合いの方もいらっしゃったかと思い

ここにお知らせさせて頂きます』

ほんとに　きっといっぱいいらっしゃったと思います